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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 71

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「裏地付きの服をつくるのは難しい」と感じる人はたくさんいます。
生地がすべるので、裁断も縫製も簡単ではありませんが、慣れない人にとってより厄介なのは「型紙」です。
セットインスリーブのジャケットや、ラグランスリーブのコートなど、基本的な形のものは裏地の型紙の作り方が記されている資料もありますが、それ以外のデザインは、表地の型紙からつくることになり、裏地の型紙の考え方を理解する必要があります。

裏地の型紙を考えるときに、大切なことが二つあります。それは「裏から見て美しくすること」と「表に悪影響がないこと」で、注意すべきは後者です。
表に悪影響を及ぼす主な原因は、「裏地が足りないため、表地を引っ張ってしまうこと」で、これは絶対に避ける必要があり、他の原因としては「裏地が長すぎて、表から見えること」があります。

裏地が足りないために、表地を引っ張ってしまうことを避けるには、表地に対する裏地の長さを少しずつ長くします(図1)。
これは、裁断、縫製の誤差、表地の伸縮性、時間の経過により下方向に伸びてしまう可能性に対して、事前に「ゆとり」を与えておく、ということです(図2)。



袖の裏地では、「袖下部分の長さを追加する」という操作があります(図3)。これは、袖の裏地が、表地の袖ぐりの立ち上がった縫い代を超えるための余分の長さが必要になるためで、計算上、「縫い代の幅×2+表地2枚分の厚さ」になります。
これらは、袖ぐりに立ち上がった縫い代がある限り、どんな構造を袖付けでも、ルールは同じです(図4、5、6)。



間違いやすい事例として、カフス付きの袖を取りあげます(図7)。
これは、断面図を描いてみると、AとBとで、長さの関係が異なることが分かります。



「裏から見て美しくすること」の例として、ここでは「どこまでが裏地か」という選択を(図8)取りあげます。
後ろ身頃の多くは、Aのように全て裏地ですが、Bのように、表地と切り替えることもあります。
このことによって、裏地の付け替えが容易にはなりますが、主な理由は「見た目」のためです。



いかに裏から見て美しくするかは、感性による部分が大きく、好みの問題ですが、表に悪影響を及ぼさないための型紙操作は、感性が入ることのない算数の計算の世界です。
また、裏地の型紙に限らず、「どこをどうするか」という構造を検討するには、断面図を描いてみるとよいでしょう。