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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 72

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きれいな型紙をつくるには、数字を意識しておく必要があります。
それは、「高度な数学」ではなく、「小学校で習う算数」です。

辺Aと辺Bは「同じ長さ」とか、角度Aと角度Bを「足すと180度」とか。
それに加えて、「正面から見た幅が10センチに見える袖口の、型紙の部分の幅は約31.4センチ」などの、周囲の長さの推測も、算数の世界です。

図1~2の場合、辺【F2】と【B2】、辺【S1】と【S2】は同じ長さ、辺【F1】と【B1】は同じ長さか、「肩の『イセ分』として、すこし【B1】が長くなります。



図3~6の場合、角度【F3】と【B3】、角度【F4】と【B4】、角度【F 5】と【B5】、角度【S3】と【S4】の和は、原則として全て180度で、スムーズな一本の線のカーブを描けるようにしますが、それ以上、それ以下を許容するパターンは様々です。

角度【F3】と【B3】の和、角度【F 5】と【B5】の和は、それ以上になる可能性はあるけど、それ以下はない。
角度【F4】と【B4】の和は、それ以上も、それ以下になる可能性もない。
角度【S3】と【S4】の和は、それ以上になる可能性はないけど、それ以下はある。

角度【F 5】と【B5】、【S3】と【S4】は、最終的に一箇所に縫い合わせることになりますが、ここの角度の和が360度以下になることは、よほど特殊なデザインでなければ、まずありえません。



これらは簡単な計算です。しかもわざわざ計算しなくても、図2、図4のように、重ねて確認すればわかることですが、実際の型紙制作において、これらのルールが抜け落ちることは珍しくありません。

それは、実際のデザインが、この型紙ほど単純な形であることは稀で、複雑になった型紙の「同じ長さ」と「足すと180度」が、ときにはどこかを実現させると、他がそうならない、という矛盾した状態になるからです。
こういう場合、他に修正すべき箇所があるはずなのですが、それが「どこか」「どのくらいの修正量か」が簡単にはわからなかったり、その変更によってデザインが、意図しない方向に変わってしまうこともあるので、このあたりから、多くの人にとっての型紙つくりがややこしくなってきます。

「簡単な算数が、簡単でなくなるとき」です。

では、慣れない人が複雑な型紙をつくるのは難しいか、というと、そうともいえず、「順番通りにすればよい」のです。

その順番とは、まず「それぞれの長さを決める」、そのあとに「各所の長さや角度を、ルールにそって修正する」ということです。
「長さを決める」というのは、「上着丈」や「袖丈」といった、よく出てくる寸法から、「裾から20センチ上がったあたりの身頃の幅」や「肘のあたりの袖の周囲」など、普段あまり意識しない長さも含み、むしろ難しいのは、この「長さを決める」ことを、適切におこなうことです。

「簡単な算数が、簡単でなくなるとき」という言葉は、正確にいうと「簡単な算数が、簡単に思なくなるとき」ということで、「計算が難しくなるわけではない」ことをいつも意識しておきましょう。