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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 66

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洋服を作るときには、完成した時だけではなく、ずっと後のことも考えて作ります。

サイズを大きくしたり小さくしたり、デザインを変えるリフォーム・リメイク対策の他にも、傷んだりした部品を取り替えられるような対策もあり、それらのことを「保険をかけておく」と言っています。


具体的には、縫い代を余分にとっておいたり、解体しやすい構造にしておいたりするのですが、過度に「保険をかけておく」と、完成作品のクオリティに悪影響を及ぼすこともありますし、そもそも、縫い方の工夫で基本的には生地の劣化は防げないので、一定以上「保険をかけておく」ことが無駄なこともあるので、それらのことと、かかる手間(コスト)とのバランスで、どれくらい「保険をかけておく」かを決めることになります。

それほどの頻度では必要のない修理に「裏地の取り替え」があり、ジャケットやコートなどでは、基本的には事前に対応しやすい構造にしておき、多くはありませんが、実際に裏地を替える事例はありますが、デザインによって難しいケースはあります。


写真1のコートは、一般的な袖のデザインと比較すると、ちょっと変わっていて、構造も特殊なものになりました。


写真2が今回のコートの袖付け部分を裏から見たところで、写真3は一般的な袖付けのコートです。
通常、裏地の袖付けと表の袖付けは別の工程になり、まるごと裏地を取り替えることは、この部分に関しては容易になっていますが、今回のコートでは、裏地と表地を同時に縫っているので、「裏地を取り替えるには、表の袖付けを一度外す」ことになります。
実際には、滅多に発生しない修理であるとはいえ、原則として避けている構造ですが、今回はデザインを優先しました。

このように、どれくらいの「保険をかけておく」べきかは、形や素材や手間(コスト)や着用する状況などのバランスで決めることになるので、一概にできるだけたくさん「保険をかけておく」、または「保険をかけておく」必要はない、などということではなく、このことも「デザイン」の領域になるのだと思います。


余談ですけど、サイドスリットの部分(写真4)を、仕上がりがすっきりと見えるように入り組んだ構造にしましたが、この部分の裏地の取り替えは比較的容易です。