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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 59

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洋服の型紙をつくる過程の大半は「変更」で、まったくの白紙からつくることはあまりなく、その変更の時には、「変える」と「変わる」を明確にすると良いと思います。

図【1】は、立方体とその展開図です。

図【2】は、赤の面の高さを半分に変えた立体と、その展開図で、ここで「変える」のが赤い面で、赤い面を「変える」ことによって青い面が「変わる」ことになり、その他の白い面は変わりません。
で、どのように「変わる」か、というルールは単純で、「つながり合う線の長さは同じ」という原則に従うことだけです。
それによって、左右の青い面は台形になり、真ん中の青い面は少し縦に長い長方形になります。


図【3】は、ラグランスリーブの型紙ですが、身頃の幅はそのままに、袖の幅を広く「変える」ことについて考えてみようと思いますが、ここでも、立方体の展開図の変更と同じく「つながり合う線の長さは同じ」という原則に従う必要があります。

もっとも一般的な解決方法が、図【4】で、袖の幅を「変える」ことによって、袖の袖付け線が長くなり、それに対応させるためには身頃側の袖付け線を長くする必要があり、今回は、身頃の幅は変えないので、下に下げることになります。
袖の形を「変える」ことにより、身頃の形が「変わる」わけです。


ただ、ラグランスリーブでは、立方体と違い、考え方のバリエーションがいくつもあり、図【5】のように、身頃の袖付け線はほとんど下げずに、袖側の袖付け線を上げることで対応させる方法もありますが、今回の場合では、さすがに不自然な形になるので、ここだけを変更することは良い方法ではなさそうです。

また、図【6】のように、袖の傾斜角を変えることによって、袖の幅を増やす、という選択肢もあり、これは着た時の機能性にも影響します。


実際には、どれか一つの方法を選ぶ、というより、いくつかを組み合わせることになりますが、「変える」と「変わる」を明確にすること、「つながり合う線の長さは同じ」という原則に従うことで、自在に形や大きさの変更ができます。

あと、もう一つの単純で大切な原則は、図【7】のように「部品を切ったり繋げたりしても、同じ形になる」ということで、これらを組み合わせて考えることによって、世の中の大半の型紙はつくることだできます。


「型紙をつくることは、単純な原則の組み合わせ」、ということなのですが、「じゃあ、型紙って簡単につくれるの?」と問われると、そんなことはなく、その理由の一つが、これらの単純な原則を全て組み合わせるのは複雑で、抜け落ちることがあること、そして、より大きな理由として、「どこの長さをどう変えれば美しくなる、または機能的になるかや、どこをどう繋げると、より美しくなる、といった美的な話がこの原則の中にはない」、ということが挙げられます。

美的な判断が、今すぐ誰にでもできるとは限りませんが、単純な原則を組み合わせることは、時間さえかければ誰にでもできることで、決して難しいことではありません。

「難しくないことまで難しく考えることはないんじゃないの?」という、「変える」と「変わる」と「切る」と「つなげる」の話でした。