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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 58

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洋服を作っていると、他ではあまり使わない言葉を聞くことになりますが、その中の一つに「袖付け」という言葉があります。

図【1】は、セットインスリーブですが、仕立てる順番は、身頃と袖を先に作ってから、身頃に袖を付けることになります。
※同じ番号の箇所は、実際には順番に縫うことになりますが、どこを先に縫っても構わないので、同じ番号にしています。

なので、「袖付け」というわけです。

図【2】のシャツスリーブは、セットインスリーブの服と同じ順番で縫うことができます。
※ 現在のシャツは、肩①、袖付け②、脇①の順番で縫っているものが一般的です。


図【3】は、ラグランスリーブで、これもセットインスリーブの服と同じ順番で縫うことができます。
ただし、裏地がある場合の身返しから裏地の縫い方は、この順番でも縫えますが、合理的手順とは言えず、あまりオススメできません。
※ 合理的手順になるかどうかは身返しの形によります。

と、ここまでは、「袖付け」と言える縫製手順ですが、例外もあり、その典型例が図【4】のセミラグランスリーブです。


セミラグランスリーブの場合、肩線を最後に縫うのがキレイで合理的なのですが、この順番に気付けない人によく出会います。

というよりも、「この順番を、取り組む前から理解できている人に出会ったことがない」と言ってもいいくらいで、その原因が「『袖付け』をいう言葉を学んだから」、だと思っています。

「袖付け」という言葉に騙されてるんじゃないかなあ?

「言霊(ことだま)」という言葉の意味を調べてみると、「言葉に内在する霊力」とありますが、まさにそんな印象で、「袖付け」だから、身頃と袖を仕上げて、最後に袖付け線を縫う、と思ってしまうけど、セミラグランスリーブ以外にも「袖付け」という縫製工程が不可能(不向き)な袖の構造はいくらでもあります。

ただ、「『袖付け』が可能な(適した)デザインの服だけを作る」という選択もあり、実際にはここで記している「例外」は少なく、メンズ服はそういう傾向にあります。

「袖付け」ができる服作りの中に留まり、その型の完成度を求めることも選択肢ですが、「袖付け」の世界の外に、デザインの自由を求めるなら、例外の存在を認識し、工程を再考する必要があります。

「袖付け」のような特定の名前をつけることにより、技術を共有できるメリットはありますが、思考と停止させてしまう弊害もあります。

ちなみに「袖付け」と同じように、間違いを誘発しそうな言葉(言霊)に「襟付け」がありますが、「襟付け」という言葉によって問題になるケースは、それほど見かけません。