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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 54

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このグレーのコートの縫い代は、脇が2センチ、裾が6センチと、一般的なものよりも多いと思います。
より形をしっかりさせたければ、さらに縫い代を増やしますし、裾広がりのシルエットでは、縫い代が収まらないので減らすことになり、使う素材や求める形によっても変えています。

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一般的なテキストでの記載は、脇の縫い代が1.5センチ、裾が4~5センチあたりだと思いますが、これらの決められた寸法というものは、「慣習」としか言いようがなく、本来は、縫い代を多くすること、少なくすることの、「メリット」「デメリット」を考えるべきです。

例えば、縫い代が多いメリットとしては「重厚感が出る」「形がしっかりする」「後でリフォームが発生した場合に対応しやすい」など、逆に縫い代が少ないメリットとしては「軽やかになる」「薄く仕上がる」「裾広がりのシルエットに対応しやすい」「生地が節約できる」など。
あと、見た目の好みもあります。

テキストに記載された縫い代というのは、どんな服でもそれほど問題の出ない「標準値」として、長年の経験によって選ばれたと思いますが、ボクの場合、もう少し多くしている、ということになります。
でも、毎回縫い代の幅を検討することのデメリットもあり、それは「効率が悪くなる」ということです。
普段は、特に問題ないなら、そのままにしておいて構わないし、作るたびに変更することは、縫う段階で、いちいち確認しなければならず、手間がかかるし、間違えやすくもなります。
「ルーティーンにしてしまった方が、間違わないし、速いし、楽」というわけです。

標準的な縫い代幅が設定された理由を分かっていなくても、標準的な服は作ることは可能なので、目安として覚えておくことは構いませんが、ある特定の寸法に決めてしまうことは不可能で、無条件に「そういうものだ」と思い込むと、忘れたころに危険にもなります。

無条件に「そういうものだ」と思い込むことで、改めて考えなくなるため、さらに理由が分からなくなり、状況が変化した時に対応できなくなるからです。

このことの更なる問題は、無条件に「そういうものだ」と思い込んできた人が指導者になった時に、誰も理由が分からなくなってしまうことで、そういう時代に入ると、決定的な不具合でも発生しない限り、誰も再検討をしなくなり、しかも、不具合の原因も分からない。

縫い代の話は、とても些細なことではありますが、世の中全体の問題と繋がっているのかもしれません。