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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 46

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写真1-1は、裏地付きのコートの脇の縫い目を中(表地と裏地の間)から見たことろです。
このままの状態だと、表地と裏地がパカパカと動いてしまう、という理由で写真1-2のように、それぞれの縫い目を縫い合わせる工程のことを中綴じ(なかとじ)と呼び、ここでは手縫いで行いましたが、ミシンで縫っていることもあります。


着物も同じように表地と裏地とが別々に動かないように縫い合わせていますし、紳士服仕立てでは必ず行っている工程だと思います。
ただ、ぼくのところでは、こういうケースで、ほとんど中綴じ(なかとじ)は行なっていなくて、結果として手間の簡略化につながっていますが、簡略化が理由ではなく、中綴じ(なかとじ)が弊害になり得るからです。


裏地は、基本的に地の目(縦か横)方向の伸び縮みしないので、完成後に伸びてくる生地を表側に使う場合、中綴じ(なかとじ)をした場合、写真3-1のようにその縫い目を残して伸びてくる可能性があり(これほど極端に伸びることはないと思いますが)、こういう場合は、写真3-2のように全体的に伸びてくる方がいい(まだマシ)と思います。

また、フレアーシルエットなどの場合、生地全体の動きに対して縫い目が固定される傾向があり、動きが不自然になる可能性があります。

したがって、柔らかくて不安定な生地であるほど、また、フレアーなど動きのある形であるほど、悪影響が出やすく、表地と裏地の性質が同じ、又は近いと問題になりませんが、表地と裏地の性質の違いが大きく、かつ表地に対して裏地が、強い(硬い重いなど)ほど、問題発生のリスクが高くなります。


ちなみに、ぼくのところでは、上記のような縫い目(線)の中綴じ(なかとじ)ではなく、写真4のような、点の中綴じ(なかとじ)を数か所にとどめていることが多く、それぞれの箇所で糸の長さを変えていて、このような仕立て方の服を着ていて、「裏地が動いて着づらい」など、気になったことはありません。

では、なぜ中綴じ(なかとじ)を行なうかを問うと、着物は、構造上中綴じ(なかとじ)をしなけれな形の維持ができませんが(他の工程で代替することは可能ですが)、洋服の場合は「安定感(安定ではなく)」などの心理的な要素は大きく、実質的には多少の脱ぎ着のしやすさや、アイロンがかけやすいなどの維持のしやすさが理由で、それ以上ではないと思っています。

紳士服のような生地と形なら、中綴じ(なかとじ)をしても弊害にはならないと思いますが、用いる生地やシルエットによって、方法を考えるべきだと思います。

中綴じ(なかとじ)には、「線」を中綴じ(なかとじ)するケースと、「点」を中綴じ(なかとじ)するケースがあり、それぞれの特徴により使い分けるといいと思います。また、「面」の中綴じ(なかとじ)も技術的にはあり得ますが、ぼくは用いたことがありません。


写真5は、襟付けの縫い目で、ここは通常は写真5-2のように縫い目に中綴じ(なかとじ)をしていますが、例外もあり、「襟付けの縫い目は必ず中綴じ(なかとじ)をしています」というわけでもありません。