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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 41

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生地って、それが織られる段階で縦横の糸を引っぱり気味で織るので、後で生地になってから、その反動で縮むことがあります。
「シャツを洗濯したら縮みました」なんて話がそれなんですけど、「じゃあ、洋服になる前の生地の段階で縮めてしまえばいいんじゃないの~!」、ということで、事前に縮めてしまう工程を「地のし」と呼びます。
具体的には、綿素材なら一晩水に漬けておいて干したりアイロンで乾かしたり、ウール素材なら霧吹きでたっぷり水分を含ませてかたアイロンをかけたり、スチームアイロンをかけたりします。
同じような似た名前の工程に、「地直し」というのもありますが、こっちは生地の縦横の織り糸が直角になっていなくて歪んでいるときに、それを直角に整える工程を指しますが、この二つの工程は、特に区別せず同時に行うことが多いと思います。

最近、学生さんから「既製服は『地のし』をしているんですか?」と聞かれたのですが、していないことの方が多いと思います。
これ、コスト削減の為の手抜きでもあるんでしょうけど、昔の生地に比べて今の生地は「地のし」の必要性がなくなってきていること、「地のし」をする意味が無いか少ないケースがあることも、理由としてあげられると思います。

前者の「『地のし』の必要性がなくなってきていること」の理由は、「地のし」の工程で生地が縮まなくなってきていること、後者の「『地のし』をする意味が無いか少ないケースがあること」は、「地のし」とした生地で作られた服を繰り返し洗濯すると、やっぱり縮む、ということがあげられます。
これらはあくまでボクの経験のなかの話なので、過去の生地と比較したデータがあるわけではありませんが、特に前者の「地のし」の工程で生地が縮まなくなってきている印象は持っています。
個人的には、表地はほぼ必ず「地のし」をしていますが、どちらかというと生地の最終確認や、これから作るものが「本当にそれでいいのか」を自分に確認するために行っている、という理由で行っていて、書家が墨汁を使わずに自らの手で墨を磨ることと、ちょっと似ている気がします。

そんな感じで、本当に必要なのかどうかビミョーな「地のし」ですが、経験上「ずいぶんと縮むなア~、生地足りるかなア~」と思うこともあって、着物の生地がそれに該当するケースが多いように感じています。

で、上記の「経験上の話」を確かめようと、試しに着物地で試してみました。

縫う過程、着る過程、クリーニングなどのケアの過程など、その生地のライフサイクルが生地を縮ませることがなければ、そのままでも構わないし、風合いが劣化することもありえるし、縮んだ生地はまた伸びる可能性もあるのでしょうけど、ぼくのところでは作る過程で、芯を貼ることなどで縮む箇所が出てくるので、最初に全体を縮ませてしまっています。

というわけで、スチームアイロン登場!。

といっても、普通の家庭でシャツにスチームアイロンかけるくらいのレベルで、それほど大量の蒸気をあてたわけではありません。

今回の生地だと、50cmが1.5cmということは約3%。
ちなみに、横方向はほとんど変わりませんでしたが、横に縮む生地もあります。

この約3%という数字は、この生地に最初にアイロンをかけた時の印象通りではあるんですけど、そのまま放置してよいレベルではなく、「着物地に『地のし』は必須だなあ」と、再確認した次第です。
ちなみに着物地は、撥水加工などの後加工によっても、けっこう結果が変わるのですが、加工と縮み方との関係はよく分かっていません。