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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 35

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「仕立て」温故知新

下の写真は、昭和51年初版の「服装講座」の教科書です。
ボクは、この時代の服の作り方に興味があって、それは、これより少し前の昭和40年代くらいに、「接着芯」が本格的に作られたこともあり、仕立て方に大きな変化が見られるからです。
毛芯が接着芯に変えるということは、作ることの簡素化と服の軽量化が、主な理由だと思われますが、単に、毛芯を接着芯に置き換えただけでは、仕上がりにいろんな弊害がでてくるため、それに対応するための、工夫の跡、苦心の跡が見られます。
また、今から見ると、「間違っている」と、言ってしまいたくなるものもあります。

具体的な例として挙げられるのは、一枚の生地に対して、全面ではなく、部分的に芯がある場合、毛芯だと特に問題は出ないのですが、接着芯では、芯のある所と、ない所の境目が、表から見て分かってしまう、いわゆる「アタリ」という現象が起こることがあります。
下の写真は、毛芯仕立てのジャケットを裏から見たことろですが、これを接着芯に変えた場合、右の赤い線のあたりが、表から見ると、線になって分かることがあります。
毛芯でも、表から見て分かることもありますが、よほど薄い生地などでなければ、特に気にする習慣はありません。
今の接着芯は、より柔らかく伸縮性のあるものも増えてきたので、比較的、この問題を気にしないで済むケースが多いと思われますが、硬い接着芯ほど、この現象は目立ちます。

「仕立て」温故知新01「仕立て」温故知新02


そこで、この講座では、下の写真のように対応していました。
身頃も見返しも、出来上がった状態のでの表から見えない箇所のみに接着芯を貼り、前肩のあたりには、「パンピース(毛芯と似たもの)または不織布」をあてるように記されています。
今では、衿の部分の表と裏の両方に、芯を貼ることは珍しくありませんが、毛芯の時代には、表と裏の両方に芯を貼る、という考えがなかったこと、芯が硬かったことなどから、このような方法になったのだと思われます。

「仕立て」温故知新03


毛芯仕立てで、ラペル(下の写真、左)や、上衿(下の写真。右)に、芯をつけるときには、折り返りのカーブを想定して、平面上ではなく、カーブさせた状態で、芯をつけます。

「仕立て」温故知新04「仕立て」温故知新05


この講座では、接着芯の場合でも、上記の毛芯仕立てと同じように、ラペルがカーブするようにしているようで、他でも、カーブした場所で接着芯を貼るように書いている講座もあります。
ボクのところでは、ラペルや衿を内側にカーブさせたければ、芯は平らなところで貼り、表衿と裏襟の寸法差を利用してカーブさせていていて、その方が効果的だと考えていますが、これも、毛芯仕立ての時代の名残りだと思います。

「仕立て」温故知新06


これは、典型的な「毛芯仕立て」で、同じ講座の中でも、毛芯仕立てと接着芯仕立ての両方が書かれていました。

「仕立て」温故知新07


これは、肩パットの作り方。
出来上がった肩パットは、いつごろから普及したのか分かりませんが、このような記載もありました。
女性用の服装講座では、この後、このような肩パットの作り方の記述は、おそらく見られないと思います。

「仕立て」温故知新08

用いる素材と、その作り方は連動して考えないと、チグハグなものになってしまうので、これらの仕立て方を、現在の素材で作っても、あまり意味がないと思いますが、それぞれの時代の服と、そのために用いられた技術との関連性を考えるのに、とても参考になる資料だと思います。
また、将来の服と、その作り方を考えるときの、ヒントになるかもしれません。