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ちょっと(かなり?)マニアックな服飾技術の話 (洋服つくりの技術を紹介してます) 8

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「くせ取り」について考える

本格的な仕立ての、ウールのスーツなどを作るときには、「くせ取り」という工程があります。
ザックリ言うと、生地に水分を含ませてから、アイロンで伸ばしたり、縮めたり(「いせる」と言います)と、平らな生地を身体に沿うように、立体的に変形させることを言います。
ウールは、水分を含ませると変形しやすくなり、乾くと固定される性質があるので、こういうことができます。

で、変形させた後で縫い合わせます。(縫い合わせたあとで「くせ取り」をすることもあります)

YouTubeなどで、紳士服テーラー屋さんの制作過程がアップされているので、興味のある人は見てみよう。

下の1枚目の写真は、袖の部品で、前側になるところを伸ばしているところで、2枚目の写真のように、折り曲げた状態で、カクカクせず、自然なカーブになるとOK。

この手の工程が、あらゆる箇所にあるのですが、ボクはこの「くせ取り」の工程の半分くらいは疑っているし、自分の仕事では、8割くらいは必要だとは思っていないので、やっていません。

簡略化以外の理由はいくつかあるのですが、大きくは、単純に、違う長さの部品を縫い合わせて(通常は、縫い合わせる双方の部品の長さは同じです)、後でアイロンをかけても、結果が変わらない箇所があることと、この行程ができるには、生地がアイロンで変形できて、かつ乾いた状態で固定されることが前提になるんですけど(芯を使う箇所に例外はあります)、ボクは、そういう生地を扱うことがほとんどないこと、です。
あとは、単に「おまじない」的に、誰かの思いつきで初めて、昔から実質的な意味のない工程もあると思います。

前者は途中工程の省略なので、「くせ取り」をしても弊害はないけど、後者は使用材料の前提が変わってしまっているので、「くせ取り」をしたら弊害がでる可能性があります。

ちなみに、写真の工程は意味があると思うけど、やりすぎると、生地が元に戻ってしまうので、あまり過信しないほうが良いと思います。
「くせ取り」で解決しようとしなくても、単純に「精度」の問題で解決できることが多いと思います。

伝統的な方法を継承することは大切だとは思うけど、その前提が変わったにもかかわらず、ただ伝統を維持しようと、いびつなことになっている、って、いろんな場面であるんだろうなあ。

「古人の跡を求めず 古人の求めたるところを求めよ」って、ググると出てきたけど、覚えてた言葉を勘違いしていた。(;^ω^)

※ここをクリックすると、写真の作品ページに移動します。
「くせ取り」について考える01

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