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洋服の「立体的」について、立体的に捉えてみる

洋服は、立体的な人間が着るのものなので、本当は完全に立体的でない洋服はあり得ませんが、それでも、より立定的に見える服と、そうでない服はあります。立体感の違いには、そもそも、立体的なデザインとそうでもないデザインがあったり、素材の影響や、縫い方によっても差が出ますが、もっとも大きな要因は型紙の違いです。

これが見た目だけの違いなら、好みの問題とも言えますが、立体的に作られた洋服は、見た目だけでなく着やすさにも直結します。
この「着やすさ」、というのは、身体の「動きやすさ」と、じっとしている時の心地よさである「着心地」とに分けられますが、洋服が立体的であることは、この両方に影響します。

立体的な洋服は、無理なく身体が収まり、身体と服の間に、適度な隙間があり(デザインによりますが)、着ていて「楽」な印象を与えます。反対に、平面的な洋服は、着ると、実際の着心地にかかわらず、なんとなく「窮屈」そうに見えることがあり、この点で、デザインとしてもネガティヴな印象になりがちです。


ところで、デザインが同じで(厳密には、結果として形が違うので、まったく同じデザインとは言えませんが)、立体的な洋服の型紙と、そうではない型紙との違いは、どこにあるのでしょう。
この問いに対し、個人的に、とくにこだわっているポイントは、「襟ぐりにしても、袖ぐりにしても、一本の線がどこからどこまでかを意識する」ということで、立体的な洋服の型紙とは、「一本の線がどこからどこまでかを意識された型紙」、ということになります。
人間の身体は、前身頃、後ろ身頃に分かれているわけではないので、型紙として、前後の身頃に分けることは構いませんが、線は前後合わせて一本として考える必要があります。

型紙の線は、それを分解していくと、過去から受け継がれてきた「テンプレート」になり、これからつくられる、ほぼ全ての型紙は、その「テンプレート」の組み合わせにすぎません。
したがって、過去のテンプレートをできるだけ多く記憶・記録しておくこと、それらの線を無理なく適切につなげることが大切で、この無理なく適切につながっている線が、「自然な線」であると言えます。

「3人のレンガ職人」というイソップ寓話があります。旅人が3人のレンガ職人に「何をしているのか」と尋ねると、1人は「レンガを積んでいる」、2人目は「壁を作っている」、3人目は「教会を建てている」と答える、目的意識の違いを示す寓話ですが、それと同じで、型紙の線を描くときにも(「引く」や「書く」ではなく、あえて「描く」と表現しています)、一本一本の線に対して目的意識を持つことが大切です。

もっとも、立体的な洋服には課題もあります。
まず、出来上がった後でアイロンがかけにくい、たたみにくい、などがあります。
また、縫製精度の高さが求められ、コストが上がる可能性があり、ほかには、デザインによっては適度な硬さが必要になり、それが制約条件となる場合もあります。

立体的に見える服が必ずしも優れているわけではありませんが、自分では、常に立体感を意識して型紙を作っていますし、それは多くの作り手に共通する目標だと思います。

2025年8月16日