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「似合う」の再考 / ほんとうの「似合う」をつくりたい

「あなたにはこの服が『似合う』」、というときの「似合う」は、いくつかの「似合う」に分割でき、それは、見た目に「似合う」、心や気持ちに「似合う」、時代に「似合う」、環境や場に「似合う」の4つです。

見た目と心や気持ちに「似合う」は、定義としてはわかりやすいと思いますが、これが一致している人は、かなり少ない気がしていて、最近は、心や気持ちに似合うを重視する傾向にあります。
時代に「似合う」とは、「流行」と言い換えてもよいですが、より長い時間軸でみた場合、身分によって着る服が決められていたりもします。 ボクは、自分がつくる洋服を、新しいモノであるよりも、より良いモノにしたいと思っています。なので、「新しい」や「今は」や「流行」などの表現をなるべく使わないようにしてますが、とはいえ、どこかに普遍的な形があるわけではなく、「流行」による影響は必ずあります。 環境や場に「似合う」は、歌舞伎座とディズニーランドでは似合うが違うとか、アーティストと政治家では似合うが違うとか、これは、実践していても、あまり自覚していないケースもあると思います。

ボクは、これらの「似合う」のバランスを高次元でとることが、作り手としての最大の役割だと考えています。


写真1は、先日つくらせていただいたショート丈のジャケットで、写真2は、そのときに描いたデザイン画です。以前は、紙と2mmの芯ホルダーでしたが、最近はiPadを使っています。なので、必要なら色も付けられます。
実際の制作では、いくつかの選択肢の中から素材を決め、その素材に適した形を考え、ご要望を伺いながら描きました。
話が一方通行では、最終的に「ほんとうの「似合う」」につながることはなく、「対話」を重ねることが、ほんとうの「似合う」を生み出す上で大切です。

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実際に大切にしていることは、全体の形について考える「大きなデザイン」よりも、細部をすべて整える「小さなデザイン」であることが多く、「それぞれのカーブの『R』をどれくらいにしようか?」みたいな、細かなことについて、よく考えます。

ところで、ずいぶんと昔に見たテレビ番組のなかで、ソムリエが、「お客様が、注文された料理と合わないワインを望まれたら、どうしますか」と問われ、その問いに対するソムリエの答えは「シェフに話して、料理の味付けをワインに合うように調節してもらう」というものでした。
ワインの味は変えられない、お客様の要望は叶えたい、でも、料理の味付けは変えられる、ということで、そのことが、変えられること、変えられないこと、変えるべきではないことを象徴している話だと感じました。
これを、洋服つくりに置き換えると、洋服の作り手が注視すべきことの多くが、「味付け」に相当する「ディテール」なのではないか、そして、そのことの積み重ねが、「ほんとうの「似合う」」につながるのではないか、と思います。

ほんとうの「似合う」をつくりたい。このことは、洋服であふれてしまった世の中で、それでも必要とされる、数少ない価値の一つなのではないでしょうか。

2025年3月24日