ほとんどの場合、洋服は自分でつくるよりも買ったほうが安いです。これは今さら説明の必要がないくらいの当たり前の事実で、この背景にはいくつかの理由があります。まず、洋服をつくるには手間や技術の習得が必要で、どちらにせよ、そこには「時間」というコストがかかり、この時間という資源がますます希少になってきています。また、材料費だけで既製品より高くなることもしばしばあり、加えて、ミシンなどの道具も必要です。さらに、安価な洋服でもその品質が向上していることも見逃せません。
それでも、「自分で洋服をつくりたい」と考える人は一定数います。
これらの状況は、「洋服を自分でつくる理由が変わった」ことを意味します。かつては「売っていないから自分でつくる」「買うと高いから、しかたなく自分でつくる」という現実的な動機が主流でしたが、現在では「自分が納得する洋服をつくりたい」「既製品と同じデザインでは満足できない」といった、より個人的で創造的な動機が多くなりました。また、その他の理由として、「自分に合うサイズがない」「純粋に、何かをつくることや、縫い物が楽しい」などもあげられます。
こうした人の多くは、市販の手芸本に付属する実物大の型紙を活用していて、自ら型紙をつくるための手本を掲載したものから、この実物大型紙が主流になったのは1990~2000年頃だと思われます。いっぽうで、文化式などの伝統的な作図技法は、「洋服を自分でつくらなければ手に入らなかった」時代に考えられた方法で、現在の状況に完全にはかならずしも適応できていません。「必要に迫られてつくる」と「楽しみでつくる」では、まったく前提が異なるため、伝統的な技法をそのまま現代に当てはめることには限界があります。
現在では実物大の型紙が広く流通していますが、デザインは限られています。希望するデザインに合う型紙が見つからない場合には、複数の型紙を組み合わせたり、既存の型紙にアレンジを加えることになり、そこに技術が必要だったりもします。また、伝統的な作図技法を習得しても、すぐに希望するデザインの型紙が作れるわけではなく、高度な技術が求められることも多いです。
オリジナルデザインの作成はいつも難しいです。洋服を自分でつくることがあたりまえだった時代と比べ、既製品が主流の時代では、デザインの選択肢は増えましたが、基礎的な作図技術だけで対応できる範囲は狭くなってきています。
縫製技術を簡略化することもある程度は可能で、現在はそういう方向にありますが、デザインによっては高度な技術や知識が必要な場合もあり、いっぽうで、デザインを工夫することで、技術の不足を補うこともできます。これらは、「簡単にすればよい」「伝統的な技術を継承すべき」といった単純なことではなく、実は、この「判断すること自体」がもっとも難しい、といえるのかもしれません。
「洋服は、自分でつくるよりも買ったほうが安い」という時代の中で自作を可能にするためには、つくり方を簡単にする工夫も必要でしょうけど、安易な簡略化を続けてしまうと、そのうちに、「本来のつくりかたが誰も分からない」という事態に陥る恐れがあり、これは避けなければなりません。
大切なことは、「洋服を自分でつくる理由が変わった」という現実に対して、まだ十分に適応しきれていない点です。この課題を認識し、解決していくことが求められています。
Tシャツは、自分でつくるよりも買ったほうが安い