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仕立てていますか?

洋服をつくることを、「仕立てる」という言いことがあります。


でも、自分の洋服つくりを、「仕立てる」という表現するのには違和感があり、避けています。

「仕立てる」にふさわしいのは、着物屋さんやテーラー屋さんの仕事なんじゃないの、と。


「仕立てる」の意味を調べると「布地を裁って衣服に縫い上げる」とあるので、自分の洋服つくりにこの言葉を使っても間違いではないのですが、やっぱり違和感があります。


じゃあ、どういう表現がしっくりくるかというと、「制作する」か、たんに「つくる」あたりで、「生産する」となると、しっくりくるのは大規模な縫製工場でしょうか。


これらの言葉の違いが気になっているのには理由があり、単に個人的な感覚の話をしたいわけではなくて、「仕立てる」「制作する」「生産する」など、これらの言葉の使い分けは、「つくり方」の違いにあるんじゃないか、また、この「つくり方」のちがいが、出来上がった服のちがいに反映されているように思うからです。

ということは、逆にいうと、出来上がった洋服を意図したものにしたいのなら、言葉も使い分けるべきだと思います。


近い言葉として「作成する」や「製造する」など、いろいろとありますが、正式な意味を追求したいわけでもないので、ここでは「洋服を仕立てる」「洋服を制作する」「洋服を生産する」に限定して、比較します。

ひとことでいうと、ボクは、これらの違いは「いつ、洋服の形を確定するか」の違いだと考えていて、「仕立てる」「制作する」「生産する」の順に、確定するタイミングが遅くなる。


たとえば、フルオーダーのテーラー屋さんの仕事では、仮縫いなどで様子を見ながら形を修正することを前提に、一着の洋服つくりを始めるので、その洋服の形を確定するのは、生地を裁断してからかなり後になり、これが「仕立てる」。
縫製工場では、一着の洋服をつくる過程で、「様子を見ながら修正する」ということはなく、つくり始める段階で、その洋服の形は確定しています。これが「生産する」。


それらに対して、ボクのつくり方はというと、この両者の中間あたりで、基本的には量産服のつくり方だけど、あとで修正することを、ある程度は想定しています。


これは、全体の工程に対する「手しごと」の比率とも関連してきて、「仕立てる」「制作する」「生産する」の順に、手しごとが増える、ということも起こりそうですが、ここで強調したいのは、「ミシンで縫うか、手で縫うか」ではありません。


で、この「つくり方」の違いによって、出来上がった服が違ってくるんじゃないか、と。


もっとも、誰の目にも明らかな違いではなく、すぐに違いが現れるわけでもありません。


単に、つくる側の「とらえ方」だけの問題かもしれませんが、ボクは気になるので言葉を使い分けていて、この「とらえ方」の違いは、長い目で見ると小さくない。


こういうことを書きはじめて、あらためて気になり、いろいろと調べてみると、「仕立てる」に近い表現として、「誂える」という言葉もあり、この言葉、知らなかったわけではないけど忘れていました。


ちなみに、「誂える」は、着物の世界では、生地を選び、裁断から仕立てまで、すべて着る方に合わせて仕上げることで、この生地選びには、白い生地を選んで、染色などの加工もしてもらうことも含まれます。

「誂える」は、テーラー屋さんは使うかなあ? ウェディング屋さんは使いそうだなあ。

着物の世界では、「仕立てる」と「誂える」は、はっきり分けているみたいだけど、フルオーダーのテーラー屋さんのやっている仕事は、そもそも「誂える」だよなあ。


「つくり方を変えると、デザインも変わる」、これはつくる人が知らない間にも起きることで、どういうつくり方にしても構わないとは思うけど、自覚的でいたほうが良いのでは、というお話でした。