山村ドレススタジオ > 婦人服オーダーメイド > 116

前の作品一覧ページに戻る次の作品

ぼくが洋服作りしている、大きな部分を占めている動機の中に、「服作りを進歩させたい」ということがあります。

服作りの世界で、先人に対して、「自分たちがつくったモノの方が優れている」と言える分野は、かなり限られていて、例えば、アスリート向けのスポーツウェアや、3Dで編まれたニットや、冬に温かい、夏に涼しい機能性インナーあたりが思い浮かぶものの、日常の織物で縫われた服が、昔の服より向上しているとは思えません。
時代に合わせて仕様やデザインは変わり、環境に適応したという意味での「進化」はありますが、それは「進歩」ではありません。

「別に進歩なんかしなくてもいい」という考えに、理論的に否定することはできませんが、「それではつまらない」

そんな意識が常にあるので、なかなか気づかれない細かな縫製方法や、難解な構造を試しています。
今回、制作したカシミア素材もコートも、一見するとオーソドックスなデザインですが、手間がかかるので、なかなか見かけないディテールをたくさん詰め込みました。

多くの場合で直線にするところを、ちょっとだけ角を落とし、曲線にすることは、具体的な細部の技術に気づくことはなくても、「なんとなく優しい」と感じられるための、大切な要素で、最後に、お客様ご自身が作られた、刺繍をほどこしたボタンに付け替えて完成です。